ここでは、日常よく診療する「変形性膝関節症」について、およびその外科的治療法の一つである人工膝関節置換術について、良くある質問に答える形で説明します。
質問1:変形性膝関節症とはどのような病気?
答え1:膝関節のクッションである軟骨がすり減り、関節炎や変形を生じて、痛みが起こる病気です。
日常生活の中で膝には常に負担がかかっています。骨と骨の間には軟骨と呼ばれるクッションがあり、膝関節への衝撃を和らげ吸収する役割を果たしています。加齢や病気などで軟骨が徐々にすり減ってくると、骨と骨とが直接ぶつかるようになり、膝の痛みの原因となります。
質問2:どのような症状がみられますか?
答え2:膝が痛む、曲げ伸ばしが十分にできない、膝が腫れる、膝が変形するなどの症状が見られます。
変形性膝関節症の患者さまに良くみられる症状として、①立ち上がりに痛む、②階段の昇り降りで痛む、③正座が痛くてできないという3つの症状があります。その他にも、膝に水が溜まる、膝がO脚(X脚になる場合もあります)になるといった症状も見られます。
質問3:変形性膝関節症の治療方法は?
答え3:まずは生活指導、運動療法、物理療法、装具療法、薬物療法などの保存的治療を行います。保存的治療で効果がえられない場合は、外科的治療(手術)を検討します。
生活指導:体重減少や普段履いている靴の見直しで膝への負担を軽減します
運動療法:膝に負担をかけずに、柔軟性や筋力アップに効果のある運動がお勧めです。ウォーキングは1日40分程度を目安に行いましょう。膝が痛くて歩けない場合は、当院のリハビリでレッドコードという道具を用いた運動療法を行なっておりますのでご相談ください。
物理療法:当院のリハビリではホットパック、超音波、マイクロ波治療などをご用意しております。
装具療法:足底板、膝のサポーター(関節症の程度に応じて数種類あります)、一本杖などが膝の負担を減らすために有用です。当院では木曜日午後に装具の処方を行っています。
薬物療法:消炎鎮痛剤の投与、ヒアルロン酸の関節内注射を行います。
質問4:外科的治療(手術)にはどんな方法がありますか?
答え4:初期の変形性膝関節症や年齢の若い患者さん、またスポーツを積極的に行ってゆきたい患者さんに対しては、関節鏡視下手術(関節内部を関節鏡で見ながら、変形した半月板や軟骨、骨のでっぱりなどを除去する手術)や高位脛骨骨切り術(脛骨をくさび状に切ることでO脚を矯正する手術)が良い適応となります。変形が進んでいる場合や肥満、高齢の患者さまに対しては、人工の膝に置き換える「人工膝関節置換術」が良い適応となります。人工膝関節置換術は、骨を覆う金属(チタン合金、コバルトクロム合金、ジルコニアなどの材料です)とクッション(ポリエチレン)でできています。年齢、症状、肥満度、スポーツ活動の程度により手術の適応が変わりますので、分からないことがありましたら外来担当医にご相談ください。
質問5:人工膝関節置換術はどうやって行いますか?
答え5:麻酔は全身麻酔で行いますので「眠くなりますよ」と声をかけられ、目が覚めたら終わっています。当院では術後の痛みを減らすため、脊椎麻酔や局所麻酔を併用して麻酔を行っています。手術時間は75分ほどで、両膝同時に行う場合は150分かかります。
手術方法は、まず膝の骨の痛んでしまった部分を削ります。人工関節の形にあうように骨をカットした後、セメントを用いて人工関節を接着して手術を終わります。変形の程度や体格などにより異なりますが、最近では10-15cmの小さい傷で手術を行うことが可能となりました。 当院では人工関節手術の合併症を減らすため高機能クリーンルームやサージカルヘルメットを準備し、患者さまがより安全・安心な手術を受けることができるよう取り組んでおります。
質問6:入院期間とリハビリテーションについて
答え6:理学療法士に指導してもらいながら、手術翌日から起立、歩行訓練を開始します。さらに、膝周りの筋力トレーニング、膝の曲げ伸ばしを良くする訓練、歩行・階段訓練などを行い、術後3週間ほどで歩行が安定したら自宅退院となります。術後には転倒防止のための装具を使用してリハビリを行ってゆきます。膝の半分のみを置換する人工膝関節単顆置換術の場合は、術後疼痛が少なく回復が速いため、術後2週間ほどで退院できます。
術後の膝をよく曲げ伸ばしするためにはリハビリが非常に重要です。退院後も術後5ヶ月間は、月に数回のペースで、外来でのリハビリを継続してゆきます。
質問7:手術前の注意点はありますか?
答え7:人工膝関節置換術を受けるまでに行っておくことについて説明します
1. 内服中のお薬がありましたら、必ず担当医にその旨をお伝えください。血液をサラサラにする薬を内服中の場合、手術前に注視する必要があります。
2. 喫煙者は禁煙してください。喫煙には肺機能の低下、感染リスクの増大などのデメリットがあります。最低でも、術前1ヶ月と術後1ヶ月の2ヶ月間は禁煙していただく必要があります。
3. むし歯の治療を済ませてください。歯科医師に人工膝関節置換術を受ける旨を伝え、むし歯等の治療を済ませてください。むし歯のまま手術を受けると、術後感染症を起こすリスクが高まります。
質問8:手術後、自宅での生活はどうなりますか?
答え8:退院時には杖や装具を使用することが多いですが、必ず要するものではありません。退院後の生活はなるべく洋式の生活をおくることをお勧めします。具体的には、椅子に座り、ベッドで寝起きし、洋式のトイレを用いましょう。床に直接座ったり、床に布団を敷いて寝る生活は起き上がり動作のときに膝に負担がかかるため避けることが望ましいです。また、掃除をするときは、掃除機などで立ったまま掃除をすることをお勧めします。膝を床について拭き掃除をしたい場合は、スポーツ用品店のバレーボールのコーナーで販売している膝パッドを使用すると良いでしょう。
質問9:旅行やスポーツは楽しめますか?
答え9:退院後6ヶ月から1年が経つと筋力が回復し違和感がなくなってくるため、旅行やスポーツも楽しむことができるようになります。
旅行に際しては長時間座りっぱなしの姿勢は良くないため、定期的に膝を屈伸したり歩いたりするよう心がけましょう。また、人工膝関節は空港の金属探知機に反応する場合があります。人工関節の手術を受けたという証明書を発行しますので担当医にお伝えください。スポーツに関しては、ゴルフ、ゲートボール、水泳、テニス、スキー、ハイキングなどの膝の負担が軽度から中等度の競技は楽しむことができます。
サッカー、野球、登山、マラソンなど膝に大きな負荷がかかるスポーツは人工膝関節の寿命を縮めることになりますのでお勧めできません。このような激しいスポーツを希望する患者様は「高位脛骨骨切り術」が良い適応となりますので、主治医にご相談ください。
質問10:手術の合併症にはどんなものがありますか?
答え10:以下のような合併症があげられます。
① 術後の疼痛:術後一時的な痛み、腫れ、しびれなどが出ますが、いずれも数日で治まってきます。手術当日など、痛みがつらい場合にはそのつど対応致します。
② 深部静脈血栓症:この手術に限った合併症ではありませんが、お腹や下肢の手術をすると、下半身を動かさずに寝ていることがきっかけになって下肢の静脈の中の血液が固まり、血栓という血の固まりが出来ることがあります(深部静脈血栓症といいます)。普通この血栓は自然に無くなりますが、まれにリハビリなどの動作中に血液の流れにのって肺に運ばれ、そこでつまって突然死する事があります(肺血栓塞栓症といいます)。肺血栓塞栓症を起こすことはまれですが、何より予防が大切なので、手術の翌日から足を動かしたり、膝の曲げ伸ばしをしたりして、じっと動かないでいる時間をなるべく短くするよう指導致します(合併症予防のための早期リハビリテーション)。万一肺血栓塞栓症が生じた場合には、酸素を吸入したり、血液を固まりにくくする薬を投与したりして対応します。
③ 細菌感染:膝関節に細菌が進入する合併症で、その発生率は1ー3%と言われてます。主に手術中に細菌が侵入したために発生する早期感染症と、術後、歯の病気、皮膚の傷などから二次的に細菌感染を起こす遅発感染症があります。糖尿病、関節リウマチ、ステロイド治療中、透析中の方は感染率が高くなります。感染症が早期であれば、人工関節を温存する治療が可能ですが、多くの場合で再手術が必要となります。関節内を洗浄する手術や、一度人工関節を抜去し感染が治ったら再度人工関節を入れなおす手術が必要です。
④ 術後出血:当院では術後出血を減らすために、ドレーンクランプ法、薬物療法などを用いております。通常輸血を必要とするほどの出血は起こりませんが、出血量が多くなった場合には輸血を用いて対処いたします。
⑤ その他:薬物アレルギー、ショック、神経血管損傷、など予測できない合併症が起こることもあり得ますが、そのつど対応致します。
質問11:人工関節の素材や耐久性について教えてください
答え11:機種により違いがありますが、大腿骨の金属はコバルトクロムもしくはジルコニウム、脛骨の金属はチタン合金で作られているものがほとんどです。金属の間に挟むクッションは高密度のポリエチレンで作られています。強固に固定しますので、人工膝関節置換術を受けられた患者様でもMRI検査を受けることは可能です。耐久性については患者さまの骨粗鬆症(骨のもろさ)の程度、術後の活動性の程度によって異なりますが、技術も道具も進歩しており、現在の人工関節は20年以上と言われています。
質問12:白井聖仁会病院で手術を受ける場合の手順を教えて下さい
答え12:外来で担当医と相談し手術を受けることが決まったら、入院の申し込み手続きと術前検査(採血、レントゲン撮影、心電図、呼吸機能検査、心臓エコー)を行います。看護師から「入院の時に用意するもの」「手術前に中止するお薬」などの説明を受けます。当院では、入院は手術日前日となります。
質問13:費用はどのくらいかかりますか?
答え13:診療点数は保険で決められていますが、2年ごとに見直されて変更されます。また、患者さんによって保険の種類が違うため(自己負担比率の差)ばらつきがあります。入院・手術にかかる費用については、患者さんごとに概算を行うことが出来ますので、必要な方は遠慮無く担当医もしくは事務会計にお尋ねください。
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