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谷川英徳

「変形性股関節症」とは?症状・治療・手術(人工股関節置換術)について

更新日:2020年11月8日

変形性股関節症とはどのような病気?

 正常の股関節では、関節の表面は軟骨で覆われており、この軟骨は股関節のクッションの役割を果たしています。加齢、病気などにより股関節の軟骨が徐々にすり減り、股関節に痛みが出る病気を変形性股関節症と言います。

 患者さんは男性よりも女性の方が多く。この場合、病気の原因として、股関節の骨の形に問題(臼蓋形成不全と言い、骨盤のお椀の部分が浅い形になります)があることが多いと言われています。40歳を過ぎた頃から徐々に股関節の変形が進み、50歳から60歳ごろに日常生活に支障をきたすようになります。

 最近は高齢社会となったため、特に明らかな原因となる病気に罹ったことが無くても、年齢とともに股関節症を発症してくることがあります。


図の説明:赤い矢印のところで軟骨がすり減り、骨が変形しています。


変形性股関節症の症状は?

股関節症の主な症状は、関節の痛みと機能障害です。股関節は足の付け根にあるので、最初は立ち上がりや歩き始めに足の付け根に痛みを感じます。日常生活では、足の爪切りがやりにくくなったり、靴下が履きにくくなったり、和式トイレ使用や正座が困難になります。病気が進行すると、長い時間立ったり歩いたりすることがつらくなり、台所仕事など日常生活に支障を来たすようになります。階段や車・バスの乗り降りも手すりが必要になります。

変形性股関節症の治療方法は?

 股関節の負担を減らすことが治療のポイントとなります。どのような動きをすると痛みが強くなるか観察して、痛みが悪化しないように日常生活を工夫することが治療の第一歩です。調子の悪い時や、仕事や旅行など負担がかかる時は痛み止めを内服するのも良いでしょう。

 「痛みがあるから動かない→体重が増え、筋肉が減る→さらに痛みが増えて動かない」という悪循環に陥りがちです。可能であれば毎日40分ほどのウォーキングが手軽な運動としてお勧めですが、痛くて歩けない場合は時間を短くしたり、水中歩行や水泳(平泳ぎを除く)を週2、3回行うと理想的です。杖やウォーキングステッキを使用することで股関節の負担を減らして歩くことができます。

 運動療法はその他の方法もありますが、疼痛を誘発してしまう可能性がありますので、慎重に始めて徐々に強度を高めていくことがポイントです。そして体重が多い場合は、運動療法と合わせて食事療法で体重を減らすことが効果的です。当院には理学療法士による運動指導や栄養士による栄養相談も行なっておりますので、お気軽にご相談ください。

 これらの保存療法でも症状が取れない場合は手術療法を考えます。初期のうちでしたら自分の骨を生かして行う骨切り術の適応ですし、関節の変形がすすんでいる場合は人工股関節手術の適応となります。

人工股関節置換術とはどのような手術でしょう?

 変形、磨耗した股関節を除去し、人工股関節で置き換える手術です。部品は、骨盤側と大腿骨側の2つに分かれ、コバルト・クロム合金やチタン合金などの金属製です。骨盤側はお椀の形を、大腿骨側はボールと支柱の形をしており、その間に人工のクッションが挟まります。手術をすることで、痛みなく滑らかな股関節運動が可能となります。





人工関節の素材は何でしょうか?

 さまざまな機種により違いがありますが、コバルト-クロムやチタンの合金です。金属間のクッションは、高濃度のポリエチレンや金属・セラミックなどがよく用いられます。人工股関節置換術を受けられた患者様でも、他部位であればMRI検査を受けることは可能です。


白井聖仁会病院で手術を受ける場合の手順を教えて下さい?

 外来で担当医と相談し手術が決まったら、入院の申し込み手続きと術前検査(採血、検尿、胸部レントゲン撮影、心電図、心エコーなど)を行います。患者様の状態によっては、自分の血液を貯めて手術時に輸血する“自己血輸血”を準備する場合があります。入院は手術予定日の前日になります。内科的疾患(糖尿病、脳梗塞など)の持病を治療中の場合は、入院が早まる可能性があります。

麻酔は全身麻酔ですか?

 全身麻酔や下半身麻酔、神経ブロックを組み合わせて手術を行います。また、術後の痛みを軽減させるために、硬膜外麻酔という痛み止めの細い管を腰に留置しておくこともあります。

術後のリハビリや退院の目安を知りたいです。

 手術翌日もしくは2日目より歩行訓練を開始します。術後1週間で歩行器を用いた歩行、術後10日で杖歩行、術後14日で階段の上り下りができるようになります。予定どおりにリハビリが進めば、術後2−3週間で退院が可能です。退院時には転倒予防のために杖を用いることをお勧めしますが、必ず要するものではありません。リハビリが順調ならより短い期間で退院することが可能です。

手術の合併症にはどんなものがありますか?

 以下のような合併症があげられます。

骨折:骨粗鬆症が強いと人工股関節を設置するときに骨盤や大腿骨に骨折を生じることが稀にあり、ワイヤーや金属性プレートを使用して治療を行う必要があります。

細菌感染:手術した傷に細菌が感染すると、傷が化膿し関節に膿がたまることがあります。感染を生じるリスクはきわめて低く1%以下です。ただし一度感染が生じると場合によっては再手術が必要になるなど治療が大変なので、予防のために抗生物質を使います。

下肢深部静脈血栓症・肺塞栓症:下肢の静脈に血の塊(血栓)ができ、肺で詰まる病気です。詰まった血栓が大きい場合致命的になる可能性があります。フットポンプ(下肢の血流が停滞しないように、空気圧で足をマッサージする機械)や抗凝固薬などを用いて予防します。

腫脹・皮下出血・大腿部のだるさ:手術後の腫れ(腫脹)や内出血(皮下出血)で、次第に消失していきます。骨のなかに堅い金属がはいるので大腿部のだるさ、違和感、鈍痛、疼痛などが発生する場合があります。

脱臼(5%):術後、股関節を無理に捻ったり、転倒した際に、人工股関節が脱臼することがあります。脱臼した場合、麻酔をかけて整復(元に戻すこと)が必要です。手術初期は注意が必要で、術後3カ月から6カ月を過ぎると脱臼しにくくなります。  

人工関節のゆるみ・磨耗:経年とともに人工股関節周囲に、「ゆるみ」が発生することがあり、人工股関節を取り替える手術(再置換術)が必要になります。現在の機種は20年程度はもつと言われています。高密度ポリエチレンという人工のクッションは1年間に平均0.1mm磨耗します。磨耗が激しい場合はポリエチレンの交換を行います。

費用はどのくらいかかりますか?

 入院費用、手術費用、リハビリ費用などを含めると非常に高額になりますので高額療養費制度を使用することを強くお勧めします。高額療養費制度は、1カ月ごとに支払った医療費が限度額を超えた場合、超えた分を支給してもらえる制度で、窓口は健康保険(国民健康保険や健康保険組合等)になります。年齢や年間所得により限度額が異なりますので、詳しくは病院の会計窓口でお尋ねください。1ヶ月ごとに計算するため、月始めに入院して手術を受け月末までに退院すると、出費を抑えることができます。

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