ここでは、腱板断裂について簡単にお話しいたします。
腱板断裂とはどんな病気?
40歳以上の男性に多く、右肩に多く発症します。加齢によって損傷しやすくなり、60歳で25%、70歳で50%の腱板が断裂しているという報告もあります。
スポーツや仕事での負荷が原因となると言われており、特に腕を頭よりも高い位置に挙げて繰り返し作業をする人に多く見られます。塗装業や大工さん、スポーツだと野球やテニスなどが挙げられます。
肩腱板断裂の原因は「急に起こるもの」と「徐々に起こるもの」の二つに分かれます。
急性断裂:仕事で重いものを持ったり、転倒や打撲などの怪我がきっかけで、腱板が断裂することがあります。
変性断裂:肩の使いすぎによる腱板のすり減りや、年齢を重ねるにつれて起きる腱板の老化によって断裂が生じます。野球やテニスなどの肩を使うスポーツを長年やっていたり、洗濯物を干したり、布団の上げ下ろしなどの家事も原因になる場合があります。
腱板断裂の症状は?
以下のような症状が見られます。
・肩を上げ下ろしするときに、痛みや引っ掛かりがある。
・肩を上げ下ろしするときに、ゴリゴリという音がする。
・反対の腕で痛い方の腕を持ち上がれば上がるのに、自力で持ち上げようとすると、痛くてできない。
・夜間に肩が痛んで眠れない。(特に肩を下にしたときに痛みが出る)
肩腱板断裂の患者さんでも、長期にわたり五十肩と診断されていることがあります。五十肩では、腕が上がらないだけでなく、横にも開かなければ後ろにも回らないというように、腕の動きが強く制限されるところが肩腱板断裂の症状と異なります。また、長年痛みが続いている場合には肩腱板断裂を疑います。
腱板とはどこにあってどんな役割をしているの?
腱板とは肩の関節を安定させる働きをもった4つ筋肉(棘上筋、棘下筋、肩甲下筋、小円筋)の腱の総称で、骨と骨とに挟まれた所を通っています。腱板は上腕骨頭という腕の骨を肩甲骨の受け皿に保持する役割を担っています。腕を色々な方向に動かすため(棘上筋が外転運動,棘下筋と小円筋が外旋運動,肩甲下筋が内旋運動)に重要な役割を果たしています。
腱板断裂の診断方法は?
腱板はレントゲンでは見えないため、MRIや超音波検査を行い診断します。
断裂が全層におよぶ完全断裂と、全層には及んでいない不全断裂があります。不全断裂には、深層の関節面側の断裂と、浅層の滑液包側の断裂とがあり、MRIによって診断ができます。また、M R I検査では棘上筋の脂肪変性(どのくらい肩を上げる筋肉が正常であるか)を評価することができ、治療方針を決定するために使用されます。
図の説明:左図では腱板(黒くなっています)が連続しています。右図では黄色い矢印のところで腱板が断裂しています(断裂部は白くなっています)。
腱板断裂の治療はどのように行うの?
<保存療法>
安静:
急性外傷で始まった時には、三角巾で1~2週安静にします。肩を使うスポーツや重労働の制限をされる場合があります。
投薬、注射:
鎮痛剤や湿布などで痛みを鎮めます。また、肩関節に炎症を抑えるステロイドの注射やヒアルロン酸注射の注射を行います。
リハビリ:
強い痛みが取れたら、肩甲骨や脊柱、骨盤などの動きを良くするリハビリや、残存している腱板の働きを良くするリハビリを開始します。
多くの患者さんは注射や薬による保存的治療で痛みが軽くなりますが、筋力低下は手術をしないと改善しない場合が多いです。断裂部が治癒することはありませんが、70%は保存療法で軽快すると言われています。
<手術治療>
保存療法で肩関節痛と運動障害が治らないときは、手術を行ないます。
全身麻酔を用いて、腱板を縫合する手術を行います。手術には、関節鏡視下手術と通常手術(直視下手術)があります。関節鏡視下手術の方が低侵襲で、手術後の痛みが少ないというメリットがありますが、大きな断裂では、縫合が難しいので、直視下手術を選択します。当院では5cmほどの小切開と1cmの傷を2カ所加え、関節鏡を用いながらアンカーを用いて損傷した腱板を縫合しており、手術時間は1時間から1時間半ほどで終了します。
手術後は、専用の装具で肩を3週間の固定し、3〜5ヵ月のリハビリテーションが必要です。
術後リハビリテーションの大まかなスケジュール
術後3日〜 他動運動(理学療法士がサポートしながら行う運動)を開始
術後3週〜 装具を外す
術後4週〜 自動運動(自分で力を入れて行う運動)を開始。
術後2ヶ月〜 筋力増強訓練を開始。
術後3ヶ月〜 90度まで腕が上がることを目標、日常生活動作レベルの軽作業
術後6ヶ月〜 スポーツ、重量物取り扱い作業への復帰
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